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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)2015号 決定 1968年6月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人五井節蔵の上告趣意第一点中判例違反、法令違反をいう点について。

所論のうち判例違反をいう点は、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、その余の論旨は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。(記録によれば、被告人は第一審判示神奈川県鰹鮪漁業協同組合の参事であったが、当時同組合内部の定めとしては、同組合が組合員または准組合員のために融通手形として振り出す組合長振出名義の約束手形の作成権限はすべて専務理事林信雄に属するものとされ、被告人は単なる起案者、補佐役として右手形作成に関与していたにすぎないものであることが、明らかである。もっとも、同人は、水産業協同組合法四六条三項により準用されている商法三八条一項の支配人としての地位にあった者であるけれども、右のような本件の事実関係のもとにおいては、単に同人の手形作成権限の行使方法について内部的制約があったというにとどまるものではなく、実質的には同人に右手形の作成権限そのものがなかったものとみるべきであるから、同人が組合長または専務理事の決裁・承認を受けることなく准組合員のため融通手形として組合長振出名義の約束手形を作成した本件行為が有価証券偽造罪にあたるとした原審の判断は、その結論において相当である。)

同弁護人の上告趣意第一点中その余の部分は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であり、同第二点から第四点までは、違憲をいう点もあるが、その実質はすべて単なる法令違反の主張であり、同第五点、第六点は、違憲をいう点もあるが、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第七点は、違憲をいう点もあるが、その実質はすべて量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

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